ベルギーの郷土菓子 21 最終回
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知っていますか? 製菓原材料
宮崎真紀
 「ベルギーの郷土菓子」シリーズ最後は、ベルギー人の好きな菓子とパンのご紹介。これらはパティスリーやパン屋なら必ず置いてある、いわば彼らの食生活になくてはならないものです。

多くの文化からの良いとこ取り?
 ベルギーという国は、1830年オランダから独立するまで、中世はブルゴーニュ公国、その後はフランスやスペイン、オーストリアに支配されていました。この過酷ともいえる歴史的背景も、食生活についていえばベルギー人に幸をもたらしたと思います。彼らには、外国から持ち込まれた珍しい食材を受け入れる柔軟さと、それを応用する器用さがありました。

日曜の朝はピストレ
 ピストルのことをフランス語で「ピストレ」といいますが、ベルギーには、拳銃と同じ発音をする「ピストレ=pistolet」という国民的なパンがあります。カリッと香ばしい皮とふんわりした中身の、直径10センチの丸いパンです。材料は小麦粉、イースト、水と塩。他のパンより発酵時間を長くして、焼く前後に蒸気を与えます。
 このピストレ、ベルギー人の週末の朝食には絶対欠かせません。しかも食べ方が変わっています。パンの表面に軽く入ったわれ目に沿って二つに割り、中身の白いフワフワの部分を取り除きます。パンの皮に目玉焼きの黄身をつけて食べたり、ハムやチーズを挟むか、ジャムや塩入りのバターをぬります。では、取り出した中身をどうするか? 食べません! 何と捨ててしまうのです。中身だって代金に含まれているのだし、大体もったいないとは思いませんか?

パンを買うのは男の仕事
 週末のピストレ買いはなぜか男性の仕事。早起きしてパン屋に直行します。長い順番待ちも慣れたもの。でも乳母車に子供を乗せて行列する人もいるのには“そこまでするかねェ〜”と、さすがの私も驚きです。焼きたてというのが必須条件とか。
 パンを買うために早起きするのをどう思うか聞くと、「親父もそうだったし、べつに嫌とは思わない」、「焼きたてのパンを買うのは家庭サービス」、「家内が起きないので仕方なく」等々。総じて男女とも当たり前と思っています。日本の男女は「考えたこともなかった」、「頼んでも行かないと思う」。この差って食文化と意識の違いですよね。
 肉屋ではピストレを昼のサンドイッチとして売っています。ローストビーフやソーセージを挟んだり、タルタルステーキ、小エビのマヨネーズ和え、白チーズに赤カブの薄切りを載せたものなど、中身はいろいろあります。

★クラミックとクラックラン
 両方ともリエージュ地方が元祖といわれていますが、全国的に人気のある菓子パンです。パン生地に乾しブドウを入れたものがクラミック(cramique)。クラックラン(craquelin)は真珠砂糖入りです。トーストにして塩入りバターをたっぷり塗り、コーヒーと共に食べるのがベルギー人の好きな食べ方。

お菓子の御三家
 ベルギー人はお菓子の名前をつける名人だといつも感心します。メルヴェイユは「すばらしい、感嘆すべきな」、ミゼラーブルとは「哀れな、みじめな」という意味。コーヒーを使うジャヴァネは「ジャワの人」。それにしてもお菓子に「哀れな」と命名するとは…。ある人いわく「あまりの美味しさに最後の一口を食べたら、次に食べる時まで待つ間が哀れだから」「美味しいので食べ過ぎて、その後哀れな姿になるから」。
 これらの菓子はいつ頃作られたかも、どこで誰が作りだしたかも定かではありません。ベルギー人にいわせると“生まれた時から食べていた”そうです

★メルヴェイユ
 
(merveilleux)
 山型の2つのメレンゲの間と周りにホイップクリームをぬり、削ったチョコレートで飾る。
★ミゼラーブル
 
(misérable)
 アーモンドのジェノワーズ生地の間に軽く仕上げたバタークリームを挟み、粉砂糖で飾る。
★ジャヴァネ
 
(javanais)
 アーモンドのジェノワーズ生地にコーヒー風味のバタークリームを挟む。チョコレートのグラサージ。

 最近では菓子や料理の世界で「伝統を見直そう」が合言葉のようで、有名シェフもパティシエも、郷土料理や伝統菓子に力をいれています。新しい味や創作菓子もよいのですが、子どもの頃に食べたお袋の味は、幾つになっても忘れないもの。今回の菓子とパンは、いずれもシンプルな材料で作られていますが、飽きがこなく、何度でも食べたいと思う優しさに溢れています。これがベルギー人の食生活の基本。まさに彼らの心の根っこだと思います。